札樽病院ブログ神経内科ミニ知識2019年1月

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2019.01.30 UP
第10回「脳の左・右は体の反対側を支配」

※HPリニューアルにつき、過去に投稿した記事を再投稿しております。

第4回「脳の中のこびと」で、脳を左右対称に縦に輪切りにした断面で感覚中枢感覚野)と、運動中枢運動野)はほぼ同じ配列で以下のように順に並んでいることを示しました。
首より上の部分、手指を支配する脳の部分が、他の四肢や体幹と比べると大きくなっていることがわかります。

■大脳の縦切り断面図での「感覚野」の並び(大脳の右半分
              上
外側 20170303-002.jpg内側
           下             

■大脳の縦切り断面図での「運動野」の並び(大脳の左半分
              上
外側 内側
           下             

ここで注目すべきは、感覚の経路も運動の経路もともに左右の脳は体の反対側を支配しているということです。
すなわち、感覚機能運動機能のどちらも、脳の左が体の右脳の右が体の左を担当することになります。
ですから、脳梗塞脳出血脳腫瘍脳外傷などいろいろな疾患で大脳が傷つくと、障害された側と反対側の手足、胴体などに症状が現れます
これは、運動、感覚を伝える経路の大部分大脳より下の脳幹や脊髄で反対側に交差してしまうためです。
脳幹や脊髄で障害された場合には、障害が現れる側はもう少し複雑な現れ方をします。
また、運動のコントロールや体のバランスを担当する小脳はほとんどの場合、障害された側と同じ側に症状が現れますが、小脳や脳幹の障害される場所によっては反対側の体に障害が現れます
このように細かいところでは複雑な場合もありますが、原則として、「大脳の傷ついた側と反対側の手足に症状が現れる」と覚えておいて差し支えありません。
昔から時々聞かれる「半身不随」という言葉は、左右のどちらかの半身の麻痺のことですが、もう少し医学的には「左片麻痺」、「右片麻痺」と表されます。
そうすると、「左片麻痺」は右脳の障害、「片麻痺」は左脳の障害ということになります。
 ここで、大脳の中で言葉を話したり、聞き取ったりする機能を担当する「言語野」は、9割以上の人で大脳左側にありますので、言語機能の障害(失語)の症状をもつ人は原則として右(片)麻痺であり、逆に左(片)麻痺の人は失語をもたないということになります。

次回、第11回は「多系統萎縮症」です。

2019.01.04 UP
第9回「振戦」

※HPリニューアルにつき、過去に投稿した記事を再投稿しております。

振戦とはふるえのことです。
健康な人でも、とても寒いときや恐い思いをしたとき、また、精神的にひどく緊張したときなどにふるえが起こることはよく知られています。
振戦はいろいろなリズムや規則性で、四肢、頚部、体幹など全身のどこにでも起こります。
安静時にみられたり(姿勢時振戦)、字を書いたり、物をもつなどの動作に伴って見られたり(動作時振戦)、ある姿勢をとった時に出たり(姿勢時振戦)などいろいろな現れ方をします。
振戦は不随意運動のなかで最もよく見られ重要です。
ふるえそのものは誰にでも起こる現象ですので、日常生活に困らなければ、特に問題とすることはありません。
しかし、何らかの病気が原因となって起こっている場合があります。
例えば、
1.甲状腺機能亢進症: バセドウ病とも言います。
のどの近くにある甲状腺が過剰に働いて甲状腺ホルモンを作りすぎるために起きます。
手先に細かいふるえがみられますが、その他の主な症状として、発汗頻脈(脈が速くなる状態)、イライラ、軽度の眼球突出などがみられます。
2.アルコール依存症:慢性アルコール中毒(俗にアル中)とも呼ばれます。
常習的に飲酒を続け、ある段階を通りこすと、アルコールが切れてきたときにふるえがでるのでまた飲んで、そしてまた切れると飲むという行動を繰り返します。
病気が重くなると飲んでも飲まなくても常に手がふるえるようになってしまいます。
3.神経疾患による振戦:代表的な病気は本態性振戦パーキンソン病です。
両方とも中年期以降に多いが稀に10代の若年者にも現れます。
本態性振戦、次いでに多く、パーキンソン病は手足に多い。
本態性振戦には遺伝傾向があり飲酒で軽減することが多い。
症状は本態性振戦ではふるえのみだが、パーキンソン病では体が硬くなったり、動きが鈍くなったり、バランスがとれなくなったり日常生活に重大な障害となります。
パーキンソン病では全くふるえの出ないタイプもあります。
ふるえは本態振戦ではある姿勢をとったとき(姿勢時振戦)や動作に伴って(動作時振戦)現れますが、パーキンソン病では安静時に出現し(安静時振戦)その部を動かすとむしろ軽減します。
書字では本態性振戦では大きく乱れますが、パーキンソン病では(重症になると全く書けませんが)書いた字がだんだん小さくなります(小字症)。

次回、第10回は「脳の左・右は体の反対側を支配する」です。